〈お話を伺った方〉
TDK株式会社 人財本部 国内人財開発統括部 労政部 本社地区人事課
佐藤楓奈(さとうふうな)様
※山形県酒田工場での勤務時に作業服リニューアルプロジェクトが発足
ダイバーシティを実現できる、時代に合った作業服を目指しリニューアルを進めることに

まずは新作業服の導入の経緯について教えていただけますか。
佐藤様:TDKとしてさまざまなDE&Iへの取り組みが進んでいく中で、作業服が男女別のデザインとなっていることが課題として挙がりました。その後、TDKの生産拠点が多く存在する秋田・庄内地区内にて、初期メンバーが集まり、プロジェクトがスタートしました。
一般的に、作業服のリニューアルは本社主導で進めることが多いと思いますが、TDKでは本社や営業所には作業服を着用している従業員がおらず、主として工場で着用されているため、ぜひ生産拠点のメンバーが主体となってほしいという思いを本社から受け取り、工場所属のメンバーが主体となって進めることになりました。その後、秋田・庄内地区以外の各拠点からもプロジェクトメンバーを選出し、現場が満足する作業服の導入を強く意識してプロジェクトを進めることになりました。
作業服をリニューアルすることで解決したかった課題についても教えてください。
佐藤様:以前の作業服は男女別のデザインであり、ダイバーシティを実現できるデザインに変更する必要性を感じていました。

メーカーの選定はどのような手順で進められたのでしょうか?
佐藤様:今回、実に約四半世紀ぶりのリニューアルだったため社内にノウハウがなく、当初はどの会社に依頼すれば良いのかもわからない状態でした。そうしたとき、以前八幡テクニカルセンターにオンワードコーポレートデザイン(以下、オンワード)の担当者が来られていたことがあったので、改めてご連絡したのがきっかけです。
選定にあたってはオンワードも含め複数社に声をかけ、コンペを実施しました。コンペの前にオンワード側から、「コンセプトを設定した方がいい」というアドバイスをいただき、迷ったときに立ち戻れるよう、最終的に以下の3つのコンセプトを設定しました。
①時代にマッチした作業服
②安全かつ機能的な作業服
③多様性の尊重
そのうえで、コンペではこのコンセプトを実現できるような提案を各社から募ることにしました。1次で半分程度に絞り、2次を経てオンワードを選定したという流れです。
リニューアルにあたって社内でアンケートを取られたそうですが、それについて教えてください。
佐藤様:社内アンケートでは、着心地、デザイン、色、今の作業服への不満など具体的な内容について質問しました。以前より女性従業員から「作業服がダサい」と言われることが多かったのですが、アンケート結果でも「満足」「やや満足」と答えた男性が60%弱なのに対し、女性は26%とかなり低い数字でした。
一方で年代別にみると、50・60代では満足度が50%以上あったものの、デザインについては全ての世代で否定的な意見が目立ちました。
実際に旧モデルの作業服は、上はクリーム色のブルゾン、下は明るいスカイブルーで色のバランスが悪く、デザインも今の時代においては洗練されていると言い難いデザインでした。一方で「今のままでいい」という回答も多く、現在の作業服への満足度もすべての属性を総合すると拮抗する結果となり、単に新しいものに変えることに対して抵抗がある方もいるのだなと認識しました。
こうした結果から、作業服をリニューアルする上で、皆が納得できるものを作ることの難しさを感じました。

作業服の旧モデル
すぐに相談できる安心感や、サンプルの質の高さなどが選定の決め手に
会社を選定する際に、どのような基準(要件や条件、比較ポイント)で選定をされたのか教えてください。
佐藤様:前述のようにノウハウがない状態でしたので、当社と伴走してくれて導入まで一緒に進めてくれるかという点が重要な選定基準でした。リニューアルの不安を理解し、解消してくれるなど、経験豊富なプロフェッショナルにお願いしたいと考えていました。
最終的にオンワードコーポレートデザインへの発注を決定されましたが、その決め手はどこにあったのでしょうか?
佐藤様:最終的には、デザインと価格が決め手となりオンワードを選びました。またそれに加えて、何かあったときに相談すればすぐに解決できるという安心感も、オンワードに決める上で後押しする要素となりました。
例えば、「社内に全くノウハウがなく、着用する人数も多くて不安です」と漏らしたときに、「前回のリニューアルから長い期間が経っている会社がほとんどですし、前任者がいないケースも珍しくないですよ。自分たちには豊富な経験やノウハウがあるので大丈夫です」と言ってくださったので非常に安心できました。また、「どんなに準備をしても絶対に想定外のことは起こります」と事前に言っていただいたこともかえって安心材料になりました。
コンペの前からコミュニケーションも密にとっており、コンペの進め方も含めていろいろとご相談していたので、信頼できると感じたことも決め手です。「自社を採用してほしい」という感じではなく、さまざまな情報提供を自然にしてくれたので相談しやすかったです。
コンペでは1次でイラスト、2次では実物のサンプルを基に選定し、サンプルをテスト着用する期間も1週間ほどありました。1次ではイラストが洗練されていると感じ、2次ではオンワードのサンプルが圧倒的に良かったです。もともとアパレル企業であるため、仕立てのクオリティや細かいところへのこだわりが他社よりも優れていると感じました。
最終的にデザインや素材、仕様をどのような基準で決定をされたか教えてください。また決定される際にこだわった点などはございますか?
佐藤様:コンセプトに沿っているかどうかが重要なポイントでした。具体的には、ダイバーシティを実現できる男女共通のデザインや、機能性へのこだわりなどです。また、約1万5,000名もの従業員に着用されるものであるため、好き嫌いがなるべく少ないことも意識しました。
素材については、当初の提案から何パターンも検討し、着心地という点を重視しました。現場でものを作っている人がいるからこそ成り立っているメーカーですので、「少しでも快適に仕事をしてもらいたい」という思いで着心地にこだわりました。
また、BCPへの対応ニーズが高まっていた時期でしたので、安全面への配慮も重要な選定基準でした。オンワードからは反射材とホイッスル型の引手をご提案いただき、役員からの評価も高かったです。導入後も現場から安全面を指摘する声は上がっておらず、全く問題なく着用できています。

男女でデザインを統一した新作業服
デザインや素材、仕様を決定される過程で悩まれたこと、問題などはございませんでしたでしょうか?
佐藤様:価格以外ではほとんど問題はありませんでした。価格に関しては、オンワードの担当者とTDKの資材部門の間で1週間ほどかけて調整し、最終的に双方が納得できる金額に落ち着きました。
スケジュールについては、タイトながらも順調に生産を進めていただいていましたが、多い拠点で数千枚もの作業服を配布する必要があったため、途中で納品時期をさらに早めてほしいと無理を承知でお願いしました。きっとお断りされるだろうと思っていましたが、なんとか前倒しいただけました。
何らかのトラブルが起きることは覚悟していたのですが、実際にはノーミス・ノートラブルで導入まで至りました。納品から配布まで混乱が生じないよう社内でもマニュアルを用意していましたが、作成にあたって細かな質問にも迅速に対応いただけました。そうしたオンワードの対応力の高さによりノーミス・ノートラブルを実現できたのだと強く感じています。

導入後1か月で定着を実感。着心地が良くなり、デザイン面も大きく改善
実際に新しい作業服を導入されて、業務面や印象面での変化を感じましたか?
佐藤様:年度初めの着用初日に工場に入ると、従業員が皆新しい作業服を着ているので、「本当に変わったんだ」と強く感じました。自分がそのプロジェクトに携わっていたということに対して不思議な感覚を持ちました。
最初は作業服が変わったことが従業員の間でよく話題に上ったのですが、1か月もしないうちに当たり前になって作業服の話題が出なくなり、その時に「定着した」「受け入れられた」と実感し、ホッとしました。
新しい作業服の着心地や作業中の動きやすさについて、リニューアル前と比較してどのように感じていらっしゃいますか?
佐藤様:従業員からは「着やすい」という感想をよくいただきます。着心地が良くなったことで「肩がこらなくなった」「軽くて動きやすくなった」という声や、デザインが改善されたことで「スタイルが良く見えるようになった」という声もあります。
また、「学生に会うときに恥ずかしくない」「新入社員に自信をもって作業服を渡せた」という話も聞きました。逆に言うと、これまではデザインが洗練されていなかったため、外部の方と会うときや作業服を渡すときに恥ずかしさがあったのだなとも思いました。
旧作業服のアップサイクルやフィルムリサイクルを通じて、サステナビリティへの取り組みも進める
アップサイクル家具のプロジェクトも始まっているとのことですが、こちらのオファーはTDK様から出されたのでしょうか?
佐藤様:TDKの資材部門からオンワードに相談し、サステナビリティに関わるシンボリックなことをやろうという目的でプロジェクトが始まりました。
TDKはサステナビリティを推進する専門の部署があり、毎年投資家の皆さま向けにサステナビリティレポートも出すなど、社外に向けて積極的に発信しています。そこで、単なるサーキュラーエコノミーやサーマルリサイクルよりも一歩進んだ活動をしたいと考えていました。
具体的にはどのような取り組みを行ったのでしょうか?
佐藤様:PANECO(パネコ)というリサイクルボードを使用したパーテーション、机、ミニソファの導入です。PANECOは廃棄衣料品に含まれる繊維を原料とした、サステナブルな繊維リサイクルボードのことで、オンワードから提案を受け、作業服と親和性が高いことから採用しました。
コロナ禍を経て社内コミュニケーションを活性化したいというニーズもあり、それに対応するためアップサイクルしたオフィス什器でコミュニケーションスペースを構築することになりました。
PANECOの魅力はどのようなところにありますか?
佐藤様:以前の作業服の色味(クリーム色とスカイブルー)がそのまま活かされているので、約四半世紀にわたって着用してきた思い入れのある作業服が新たな製品に生まれ変わったことを実感できるのが魅力です。従業員からすれば以前の作業服が使われていることが一目でわかりますし、TDKを訪問されたお客様との会話のきっかけにもなり、TDKのサステナビリティに関する取り組みを知っていただくことにも繋がっています。

PANECO(青)
アップサイクル製品の形にもこだわっているそうですね。
佐藤様:そうですね。パーテーション、机、ミニソファをTDKのロゴをモチーフにした形にしていただきました。こうした取り組みが評価され、社内の賞を受賞することができました。
グローバル規模で幹部が集まる会議の際にこれらを使ったブースを設置し、広くPRすることもできました。

アップサイクルによるパーテーションと机、ミニソファ

パーテーション全体像
フィルムリサイクルの作業服についてもお伺いします。もともとはどういう経緯でフィルムリサイクルの作業服を導入することになったのでしょうか?
佐藤様:もともと積層セラミックコンデンサ(以下、MLCC)の製造工程にて使用済となるフィルムのリサイクルをTDKと東レ様で協業して行っており、今回の作業服リニューアルの話が出る前から、MLCCの資材部門内で「使用済みのフィルムを糸に加工して作業服が作れたら、従業員の環境意識の向上に役立つ面白い取り組みになるかもしれない」という話があったようです。
そして今回作業服をリニューアルすることと知った資材担当者から「フィルムリサイクルの作業服を作りませんか」という連絡をいただいたのがきっかけです。
当初はフィルムリサイクルの生地を使用して制作する予定でしたが、作業服リニューアルのスケジュールがタイトであったことから、最初は通常の素材で作り、その後リサイクルの糸を使うということになりました。
その後東レ様とオンワードで、生地の物性をテストし、元の生地と同じクオリティのものを作れるようになりました。
現在はMLCCを生産している拠点の一つである岩手県の北上工場にのみ導入しておりますが、通常の素材を使った作業服の在庫を消化したタイミングで他の工場にも順次導入し、ゆくゆくは全国すべての拠点で着用する予定です。
元の生地と同じクオリティになるまでの期間はかなりかかったのでしょうか?
佐藤様:最初の作業服の納品は2023年でしたが、リサイクル生地を使った作業服が導入されたのが2025年の6月1日※でしたので、2年ほどかかっています。生地を作るのにも1年ほどかかりました。
フィルムリサイクルの取り組みは大きな意味を持つものだったのでしょうか?
佐藤様:そうですね。今回リサイクルの対象となったフィルムは積層セラミックコンデンサの製造工程で年間数百万トンも出るのですが、それを新たな価値を生み出す用途に活用できたのは非常に良かったですし、従業員のマインド醸成に寄与できるシンボリックな取り組みになったと実感しています。

フィルムリサイクルにより作られた新作業服
最後に、今後取り組みたいことやオンワードに期待することなどはありますか?
佐藤様:プロジェクト自体は完了したので、今後は安定供給を第一に考えていきたいと思います。
サステナビリティやBCPをはじめ、社会から求められ企業として責任を果たすべき事柄は今後も増えてくると予想されますので、その際にはまた一緒に取り組みを進めたり、いろいろなアドバイスやご提案をいただいたりできればと思います。
デザイン詳細







